「ま、待って。」


「・・・・?」



 何  を  し  て  る  ん  だ  私  は 。


「ごめんなさい。なんでもない。」

ぱっと手を離した。
そういって前髪を弄る。



「え?や、ごめんね。なんか」

ふうと頭を一気に落ち着かせることに専念した。


「そばにいてやろうか?」


「え!!!?いやいやいや!いいよ。ごめんね。」


「そっか。じゃあ俺帰るな。」

「うん。」



玄関で阿部くんを見送る。
作った笑顔が気付かれなくてよかった。


廉は、少しながらでも、成長し、自分と向き合っている、


野球という形で、


私は?



『今度はこの発表会に出なさい。』


『この先生が大変君のことを気に入っているよ。』


『いつも通りに落ち着いて弾けばいい。』


私はなんだ。

何をもがいて・・・・。


野球してたとしてもいつかは終るだろう。


私は何か。


残せるのか。


何か

つかめるのだろうか。


何が、


一生のうち

なにができるのだろうか。


「・・・・・ふっ・・、うぅ・・・。」


考えると涙が止まらない。


私ができることなんて。


なにも・・・・


「うう・・えぅ・・・。」



「また泣いてるのかよ。」


「・・阿部・・くん?」



「おい。」


そういって手首をぎゅっと握られて無理矢理私は立たされた。



「あの・・・・。わ、私・・・・。」


「ッー!みてりゃわかるんだよ!あからっさまな作り笑いしやがって!」

「え!」

「だぁってろ!今日は三橋が帰ってくるまで傍にいてやっから!」


なんであなたはそんなに、

そんなに優しいの?


「阿部く・・ん。」


「お前は三橋と違って感情を表に出さないし、すぐ泣いたりしねえ!それは確かに野球では有利かもしれねえ・・けど!
 こういう大切なときに黙ってられっとイライラするんだよ!もう少し頼れよ!!」


そういって阿部くんは私のことをぎゅっと抱きしめた。


「阿部くん・・・?」

「お前はまだ未来がどうしよーとか決めなくてもいいんだよ!まだこうなれればいいな程度でいいじゃねえか!
 あんま・・・あんま。心配させんな!」


そういったらまた私、泣いちゃうでしょう?


「うんっ・・・ごめんねっごめっ!」

「そばにいてやっから、泣けよ。」


子供のように泣く私をアナタは唯あやしてくれた。


教えてあげないけど、


すごく優しい顔してたよ。



「なんか・・お前が表にそういう感情だすのは、新鮮な気がする・・・・。」

「私も・・・・。なんだかごめんね。恥ずかしい・・・・。」

「いや、いいって。」

「阿部くん。」



「ん?」


「その、ありがとね。」


「おお。」



お前のそのウサギのように腫れた目と

りんごのような頬と

雪のように白い手で顔を覆う姿が

俺にはとても可愛く思えた。


お前がいつか

いつか

俺と隣を歩いてくれることを

いつの間にか俺は願っている。