パシッパシッとグローブにボールがぶつかる音が
 庭に鳴り響く。さて、どう廉を納得させようか。



03.S'il vous plait





「れーんー、」

「な、なに!?」


「私さー」「うん」

「しばらく野球、休むよ。」



ボトン。



廉がボールを落とした。




「ちょっとねぇ・・・廉・・そんなあからさまに驚かなくたっていいじゃない。」



「な、なんで!?どうして!?」




「あ、ははは、や、ちょっと、ほら始業式とか荷物とか整理だって。すぐ、終わりマス。」



「なら、俺も手伝うから!」

「いいって。それ以外にも色々理由はあるけど。」


「・・・?」


「マネジね、あの、私の気持ちが落ち着いたら、ちゃんと入るよ。」


「うん!」


廉がめったに見せなくなった笑顔を見せた。
私はそれに応じてにっこりと笑う。


この笑顔は今だけは私のものなんだ。双子だけの特権だよね。



静かな夜だった。


部屋にあるヴァイオリンケースを取り出し
ヴァイオリンに触れる

すっと弦を弓でひく

そのままソナタ、プレリュード、協奏曲を奏でる


久しぶりだった。

お母さんが少しは女らしいことするためって買ってくれたんだっけ?

ヴァイオリンを撫でケースにしまいベッドにもぐった。



そして入学式になり廉が横に、クラスを探していた。


「廉どこになった?」

「え。あお、・・・・」


「私、は七組か。どれ、廉探してあげるって。」


「あ、ありがと・・・・。」


「廉。九組だよ。二つちがうけど結構近いじゃん。」


「おお、!よかった・・・。」


「クラスいくからね。あと。帰り・・・」

「俺、グランド少し見るだけよっていく・・・よ。」

「ん!見るだけじゃダメだよ!ちゃんと行ってきなさい!廉はいい投手なんだからね!」

「お。おう・・・・。」



廉とはやっぱり双子だからか同じクラスになれそうにない。

私はめんどくさそうに七組のドアをあけた。

席に着くとやる気のなさそうにイスに座る。



「・・・え、」


「・・・ねぇ!」



「は。はい?」


「俺、隣の席の水谷文貴!よろしく!」

「・・・三橋。です。よろしくね。」


私はビックリして自己紹介した。

「ふわふわ・・・・。」

「え?」

「水谷くんの髪の毛。ふわふわなのね。」

私はそっと水谷くんの頭に手を置きなでる。

「わ、わ、」

「あ、ご、ごめんなさい!」


「や、ちょっとびっくりしただけだよ!触って良いよ!」

「あ、ははいいのいいの!ちょっと知り合いに似てたから・・!」


りおーにそっくりだな・・・!と少しだけ驚いた。


前の席に居る人がこちらを見てきた。

どこかで見たことあるなー・・・・。んー・・・・



「お、お前!」

「、はい!?」

「シニアにいなかったか・・・?!」



ああ、シニアの人かな・・・。
でも、私はもう、野球にあまりかかわりたくない。


廉との約束が嘘になっちゃう・・・。


「・・・気のせいじゃないですか?」



咄嗟に出てきたことばがこれだった。

あー、バレるかな。



「そっか・・・。まあこんなに髪の毛とか違うもんな。わ、わり。
 俺、阿部隆也。よろしく。」






・・・・・・・・・・バレてない?


まぁこんなに髪伸ばしてればそっか。



「ねーひかりちゃんってどこ中?」

水谷君が聞いてきた。

「えーとね。」




プルルルルルルルと電話がなる。


「ひっ!?」



いきなりなった電話に三人でびくっとする。


「ごめ、ちょっと待ってね、も、もしもし。」



ー?』


「り、りおー!あんた馬鹿・・!?もうちょっと時間考えて電話してよ・・・。」

『だって寂しいんだもぉん・・・。』

「いつまでもそうやってたら準さんの捕手になれないよ!」

『うーっ・・・。に会いたい・・・・。』

この声に弱いんだよなぁ・・・。


「はいはい、次の日曜とかね。そいじゃ切るからね。」

『ごめんねいきなり。学校だった?』

「そーだよ。全く。この寂しがりやりおー。」

『お、りおー誰に電話してんの・・!?もしもーし、慎吾先輩でーす。』

「し、慎吾先輩・・・?」

『あ、じゃん。久しぶり。そっちはどうなの?』

「げ、元気です。」

『そっかー。で、今日のパンt慎吾さん貸してください!も、しもし!?』


「じゅ、準さんまで・・・。」


、元気か!?』

「大丈夫ですよ・・・。皆して、戻りたくなるじゃないですか・・・。」

『プハッ、戻る気ねーだろ?』

「まぁ、でも、寂しくなってきた・・・・。準さん。」

『ん?』

「ありがと。じゃあ。切るから。」

『うん。

「はい?」

『好きだぞ。お前の野球。じゃあ。』

ブッと切れた電話。
今のは、どういう意味・・・?

かああぁぁと顔が赤くなる。


「彼氏から?」

「ま、まさか!いないよそんな人。」

「じゃあなんで顔赤いの?」

阿部くんって、意地悪なのかな・・・・。

「え、あ、いや。ちょっとね。」


「で、中学どこ!?」

「えと、桐青。」

「え!桐青!?去年の野球の優勝校じゃん!」

「水谷君・・野球好きなの?」

「うん、俺野球部入るよ!」

「そっか。」

「俺も。」


いや、そりゃ阿部くんはね。


「三橋は?」


「えーと、多分何も。」

「えーじゃあ野球部マネジやれば!?」

「ふふ、でもできるかな・・・。考えておくね。」


にっこり、気づかれないような作り笑い。


「よろしくね。廉のこと。」


「廉?」

「私の双子。」


「へえー。」

「ちょっと臆病だから。」

「そうなんだ。」


キーンコーンカーンコーンとチャイムが響いた。